猫の小林さん

箱根彫刻の森美術館にて、現代美術作家・飯川雄大さんの代表作『ピンクの猫の小林さん』をモチーフとした大型造形物が展示されました。
自然豊かな屋外空間に突如現れる、鮮やかなピンク色の巨大な猫は、多くの来場者の視線を集め、彫刻作品群と共存しながら独特の存在感を放っています。

この展示にあたって検討された造形計画や設計の考え方、展示環境を踏まえた準備内容などを、3D図面を中心にご紹介します。
完成した姿だけでなく、どのような思考と工程を経て、このスケールの造形物が実現可能な形として整理されていったのか。その背景を知っていただくことで、大型造形物ならではの設計の難しさや面白さを感じていただければと思います。

「飯川雄大 デコレータークラブ 同時に起きる、もしくは遅れて気づく」弊社で製作させていただいたエア遊具が箱根彫刻の森美術館で展示されます。詳しい情報は下記よりご確認ください。

https://www.hakone-oam.or.jp/exhibitions/article.cgi?id=10922455

企画段階で求められた条件

企画段階でまず共有されたのは、飯川雄大さんの代表作『ピンクの猫の小林さん』が持つ独特な存在感を、スケールアップした状態でも損なわずに表現したいという強い意図でした。
原作が持つ愛嬌や違和感、そして空間に対して少し異質に立ち上がる感覚を、彫刻の森美術館という屋外環境の中でどのように再構成するかが大きなテーマとなりました。

展示期間は2022年7月29日から2023年4月2日までと、季節をまたぐ長期展示が想定されていました。夏の強い日差しや秋冬の冷え込み、降雨や風など、自然環境の影響を長期間受け続ける条件下で、造形物が安定して存在できるかどうかは非常に重要な検討項目です。
短期展示であれば対応可能な方法であっても、数か月単位の屋外展示では適さない場合もあり、設計段階から慎重な判断が求められました。

また、今回の展示では、来場者が作品の内部や周囲を体験できる要素が重視されていました。猫の後脚部分が通路をまたぐように設計され、その下を人が通り抜けられる構成は、単なる鑑賞物としての造形ではなく、空間体験としての作品を成立させるための重要な要素です。
この要望を実現するためには、造形的なバランスだけでなく、人の動線、安全性、視界の抜け方までを考慮した設計が不可欠でした。

スケールについても、高さ約16メートル、全長約21メートルという非常に大きなサイズが想定されており、単純に拡大しただけでは成立しない課題が多く存在していました。
巨大化によって生じる構造的負荷や素材選定の問題、設置時の作業性など、あらゆる要素を総合的に整理する必要がありました。

制作前の準備・打ち合わせ

企画内容を具体化するため、まず行われたのが設置予定地の現地確認です。
図面や写真だけでは把握しきれない現場特有の条件を確認することは、大型造形物の検討において欠かせない工程となります。

彫刻の森美術館の敷地内には、多くの樹木が植えられており、設置場所も自然の起伏や植生の影響を強く受けます。今回の構想では、猫が木々の間に身を潜め、そこから顔をのぞかせるような配置が求められていました。
そのため、木と木の距離、幹の太さ、枝の広がり方、視線の抜け方などを実際に確認しながら、どの位置に造形物を配置するのが最適かを検討しました。

現地では、地面の傾斜や足元の状態も確認し、設置後の安定性を確保するためにどのような対策が必要になるかを協議しました。
これらの情報をもとに、単に「大きな造形を置く」という発想ではなく、「その場所に最も自然に存在する形」を探るプロセスが進められました。

図面・設計段階の紹介

現地調査と要望整理を踏まえ、次に進められたのが図面と設計の検討です。
できる限り大きなスケールを実現しながら、屋外展示として安全性を確保するために、形状・構造・設置方法を多角的に検討しました。

造形全体のバランスだけでなく、来場者が通路をくぐる部分のクリアランス、視線の抜け方、風を受けた際の挙動なども想定しながら、立体的な設計を行っています。
3D図面では、完成時の見え方だけでなく、設置時の支点や補助構造、地面との関係性まで含めて整理することで、実際の展示環境を具体的にイメージできるようにしました。

この段階での図面は、あくまで「造形の完成形」を示すものではなく、展示を成立させるための検討資料としての役割を持っています。
どのような条件であれば実現可能なのかを可視化し、関係者間で共通認識を持つための重要なプロセスでした。

制作工程について

『ピンクの猫の小林さん』は、非常に大きなスケールと独特な造形を持つ作品であるため、一般的なエア遊具と同じ考え方では制作できませんでした。
特に重要だったのは、作品としての表現を損なわずに立体化すること、そして屋外での長期展示に耐えうる構造を成立させることです。

本作品の象徴でもある鮮やかなピンク色は、既存の素材色では再現が難しく、生地の段階から特別な色味で制作する必要がありました。
一般的なエア遊具ではPVC素材が用いられることが多いものの、今回のスケールでは重量が増しすぎてしまうことや、細部の造形表現が制限されるという課題がありました。

そのため、軽量性と柔軟性、表現性を重視し、ナイロン製の特殊な生地を採用しています。
この素材を用いることで、巨大なサイズでありながら、猫特有の柔らかなフォルムや曲線を自然に表現することが可能となりました。

制作工程では、全体のバランスを保ちながら各パーツを組み上げ、空気圧による張力が均一になるよう細かな調整を行っています。
大型造形では、わずかな歪みやズレが完成時に大きな違和感として現れるため、工程ごとに形状確認を行いながら制作を進めました。

制作期間は約3か月。
サイズや素材、展示条件を踏まえたうえで、現実的かつ安全な工程として進められています。

設置・施工について

ピンクの猫の小林さん
ピンクの猫の小林さん

設置作業は、彫刻の森美術館という自然環境の中で行われました。
本作品は、木々に囲まれたエリアに配置されることが前提となっており、単に造形物を設置するだけでなく、周囲の環境との調和が重要な要素となっていました。

猫が木の影に身を潜め、そこから顔をのぞかせるような印象を演出するため、設置に先立って杉の木の剪定を行っています。
これは造形物を目立たせるための処置ではなく、自然な見え方を保ちつつ、安全に設置できるスペースを確保するための調整です。

また、巨大な造形物を安定して支えるため、背面には専用の土台構造を制作しました。
この土台は現場条件に合わせて加工を行い、設置環境に応じた形で取り付けられています。

屋外での長期展示では、風や雨、地面の状態などが常に変化するため、見えない部分の構造こそが安全性を左右します。
景観を損なわず、かつ造形物を確実に支えることを前提に、現場での調整を重ねながら設置作業が進められました。

結果として、本展示は会期終了まで大きなトラブルなく維持され、来場者が作品のスケールや空間性を体験できる展示として成立しています。

この実績から分かること

今回の展示計画から見えてくるのは、大型造形物やキャラクター造形を屋外空間に設置する際には、造形そのもの以上に「設計と検討の質」が重要になるという点です。
完成した姿は一つですが、その裏側には数多くの条件整理と判断が積み重ねられています。

特に、美術館や公共空間での展示では、安全性や環境条件への配慮は不可欠であり、短期的な視点ではなく、長期間にわたって安定した展示が可能かどうかを見据えた設計が求められます。
そのため、企画段階から現地調査、3D図面による検証を重ねることで、初めて実現可能な形が見えてきます。

エアー遊具カンパニーでは、こうした大型造形物や特殊造形物について、完成品の提供だけでなく、構想段階からの相談や設計検討、3D図面の作成といったプロセスにも対応しています。
キャラクターを立体化したい、屋外展示を前提とした大型造形を検討しているなど、具体的なイメージが固まっていない段階でもご相談いただけます。

展示内容や設置環境に応じて、どのような条件整理が必要になるのか。
その第一歩として、今回の3D図面紹介が一つの参考になれば幸いです。

大型造形物やキャラクター造形は、完成形だけを見て判断することが難しく、実際には 設置環境・展示期間・サイズ感・素材条件 など、企画段階で整理すべき要素が多く存在します。

今回ご紹介した『ピンクの猫の小林さん』の3D図面検討のように、エアー遊具カンパニーでは、「まず立体として成立するか」「屋外展示として現実的か」「長期間の設置に耐えうるか」といった視点から、設計・検討段階のご相談にも対応しています。

まだ制作が決まっていない段階でも、キャラクターを立体化したい、大型造形の可能性を検討したい、屋外展示に向けた構造や素材を相談したい、といった内容でも問題ありません。

企画書やラフ、参考画像、過去作品などがあれば、それらをもとに 3D図面制作や設計検討の進め方 をご案内することも可能です。

展示・イベント・アートプロジェクトなど、大型造形や特殊造形をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

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開催情報

展覧会名
飯川雄大 デコレータークラブ 同時に起きる、もしくは遅れて気づく
Iikawa Takehiro DECORATOR CRAB “Occurring simultaneously or awareness being delayed”

猫の小林さん
猫の小林さん
猫の小林さん

アーティスト
飯川雄大

会期
2022年7月30日(土)~2023年4月2日(日)

会場
彫刻の森美術館 緑陰広場・アートホール

主催
彫刻の森美術館(公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団)

協力
エアー遊具カンパニー(株式会社アールイーナンバー)
株式会社ティーハウス建築設計事務所